ノーズ部の形状というか、要は、二つのCアイの間にはさまれた部分です。この部分では、考えることが多いです。何故かというと、ライダーマスクの形状の中で、最も複雑に凹凸が形成されている場所だからです。また、それ故に、旧1号としての特徴が、最も表われている部分と思われます。
○上部 未だに悩んでいる場所です。 スタジオで撮影された初期のスチール(講談社「仮面ライダー大全集」表紙に代表される、鹿皮製スーツと言われるスチール類)から判断して、Cアイから斜め下に直線的に下るラインが存在しています。ラインからCアイ側は黒く塗られているので、そのライン自体は容易に判断できます。この塗り分けは、レインボー造型の1/2マスクでも再現されていました。問題は、このラインがモールドか、単なる塗り分けなのか?です。 マスク向かって左側(マスク右目部)は、明らかにモールドになっています。この点に関しては疑いの余地はありません。問題は反対側です。おそらくは、モールドになっていただろうとは思うのですが、左右対称であったかどうかは疑問です。 モールドがあったとして、そのモールドは意図的につけられたものか、それともついてしまったものか?はどうでしょう。私は、「ついてしまった」可能性が高いと考えています。理由は、ライダーマスクの左右非対称性や、全体の造型精度から、一番繊細なラインである、Cアイからノーズに続くラインに、こんな手の込んだ細工をする余裕があったとは考えにくいからです。このラインの成形は、マスクを造型していく上で、Cアイを取り付け、ラインを修正していく、最終段階のプロセスにあたるため、もし完成を急いでいる状況が合ったとすると、モールドとなってしまった跡を、最終的に塗装でつじつまをあわせたと考えるのが、最も妥当な解釈かと考えます。 上左、試作品の写真では、上記解釈のもと、ノーズからCアイへ続くラインを滑らかなものにしてみましたが、実際に存在していたモールドということで、上右、現在の改修状態では、左右にモールドをつけてみました。
○中部 黒く塗られた、三角形の部分です。 この部分で最も重要な点は、単純な平面(あるいはゆるやかな曲面)ではなく、ノーズとの接合部からマスクの外形に沿った曲面と、Cアイ周辺のフィレットのような曲面で構成されているため、Cアイとの接合ラインの外側に沿って、凹んだ部分があるということです。これは、「全体の形状」の項で述べた、Cアイ周辺のラインを修正していく過程において、形成されたと考えられます。言葉で表現するのは困難ですが、写真で見れば解ると思います。 この部分の形状は、旧1号初期に特徴的で、修理やリペイントの度に、徐々に平面的な形状になっていき、その後のライダーマスクから消えてしまったと推定されます。成形品を修理、リペイントする際に生じやすい形状変化の「モールドが甘くなる」、つまり、凸は削られ、凹は埋まり易いことがその原因でしょう。また、この部分の形状は、FRPで抜いたマスクを成形したりする上では邪魔なものであり、Cアイ取り付け前に、中途半端にこの様な凹凸があったら、平にならしてしまいたくもなります。 「死神カメレオン」で使用されたマスク(宇宙船別冊の「怪獣ヒーローお宝鑑定カタログ」でスナップが掲載されました)は、私個人としては、2個目のFRPマスクと考えているのですが、それの時点で、既に平に近い状態に成形されており、もしかしたら、このモールド自体、「ついてしまった」もので、「つけようとした」ものではないのかもしれません。 しかしながら、旧1号としての表情を引き締める上で、この形状は、非常に重要なポイントであると、私は思います。
○下部 下部と言っても、ここでは、正面中心の柱状突起について考えます。 ノーズの側面最下部は、やや、前方に突き出して反った状態になっていると思われます。ただ、それが意識的に形成されたかどうかは疑問です。おそらくは、マスク上部からのラインを受けて、スムーズにノーズ正面の直線につなげ、最後の最下部で、エッジをシャープに出すことを意識して、やや、上向きのカーブが形成されたのではないでしょうか。また、この最下部の断面は長方形ではなく、明らかに台形です。 正面から見た形状は、Cアイからの流れがあるため、微妙な曲線で構成されており,平行な直線領域はないと考えられます。Oシグナルのあたりで最も幅が狭くなり、下に行くほど広がっています。これも、どれだけ意図的に行われたものかは疑問です。 この、正面中心部は、一見、直線的に見えて、実は、全てが微妙な曲線で構成されている点が、旧1号、さらには、仮面ライダーの魅力を考える上で、最も重要な点だと考えています。そこには、明らかに、感覚的に優れた人の手によって形成されたラインが存在していると思うのです。絶妙なバランス感覚だと思います。そして、それは、修理や複製を重ねるうちに、失われていってしまうものなのでしょう。 旧1号の魅力は、そういった、偶然なのかもしれないけれど、そこに存在する絶妙なバランスにあるような気がします。 |