- クラッシャー(下顎) -

 旧1号とその後のライダーマスクで、色以外の外見上、最も異なる部分です。FRP製とラテックス製があったとされていますが、実際のところはどうなのでしょう?私の想像では、「FRP製のクラッシャーを最初に製作したかもしれないが、使用することは困難と判断し、撮影にはラテックス製しか使われなかっただろう。」です。

 クラッシャーそのものの形状は、いくつかのスチールでご存知のことと思います。顔の下半分がスッポリ隠れてしまうものです。ここで、FRP製のクラッシャーのマスクを作った方ならわかると思いますが、余程薄く、柔軟に成形したものでなければ、FRPのクラッシャーを付けた上からマスクを被るというのは、非常に困難であると私は思います。マスクの側面下部に取り付けられたサイドカバーが、極めて初期(鹿皮製スーツ)のスチール撮影の時点で既に傷んでいるのは、FRP製のクラッシャーの上からマスクを被ろうとしてクラッシャーにサイドカバーを巻き込んでしまい、その結果傷んでしまったのではないか?と想像しています。

 少なくとも、旧1号の最初期で見かける、クラッシャー(下顎)がマスク前部(のクラッシャー)よりも前に飛び出した状態(スチール)というのは、FRP製のクラッシャーにしては、あまりに柔軟に変形していると考えられますので、第1話のダムでの撮影はラテックス製のクラッシャーで行われたと考えるのが妥当ではないでしょうか。

 この件は出版物での記述もかなりまちまちで、不明な点が多いです。私が上記の考えに至った最大の根拠は、「鹿皮製スーツ」のスタジオスチールです。あの撮影時点は、第1話の撮影前あるいは最中であると言われています。クラッシャーの前歯も破損していません。が、私はあのクラッシャーはラテックスであると考えています。光沢もあり、一見FRPにも見えるのですが、あのクラッシャーがFRPであるとするとクラッシャー上部の広がりが大きく、マスクを上から被るにはあまりに無理があると思われます。前歯とのかみ合わせのための切り込みに、成形時の「バリ」も見られます。ラテックス製であっても新しいうちは、FRPと見た目はほとんど差が見られないと思います。手元に数枚あるスチールを検討すると、表面状態、歪みから考えて、ラテックス製と判断することが妥当であると考えています。

 もし、FRP製のクラッシャーがこの時点で採用されているならば、それは当然アップ用となりますので、この撮影会で使用されないのは合点がいきません。もし、FRP製があったとすると、この撮影会以前に不採用になったと思われます。不採用の理由が私の推測通りだとすると、アクションばかりの撮影で復活する可能性は、ほとんど無きに等しいと考えられます。その様な考えから、FRP製のクラッシャーはあったかもしれないが、撮影では使用されなかっただろうと判断したわけです。

 なお、旧1号当時の造型事情に詳しい方の話によると、当時の担当者は「クラッシャーは全部ラテックス製だよ。」と証言されたそうです。「ポリ製もあったでしょ?」としつこく聞いたところ、「最初に1個くらい作ったかな~?」という返答が得られ、一応、存在はしていた様です。ただ、ポリ製のクラッシャーでは、やはりマスクが被れなくて使い物にはならなかったそうで、本編の撮影は全てラテックス製クラッシャーで行われたとのことです。それが事実かどうかは判りませんが、ポリのクラッシャーが使用されなかったと推定する伝聞証拠としては十分なものであると思います。

 また、一般にFRPとラテックスの材質に関わらず、旧1号最大の特徴としてクラッシャーの付け方があるかと思います。FRP製クラッシャーの場合、かなり下顎を引いた状態で装着しなければ、クラッシャーの最も幅が広い部分がマスク内部に隠れません。逆に考えると、顎を引いた状態で装着する様に、クラッシャーは造型されたと考えられます。このことは、造型時のスナップをはじめ、原作(マンガ)の初期では顎を引いた状態で描かれていること、そして何より、最初期のスチールでは全て下顎を引いた状態であることから想像できます。

 この付け方は2話目、3話目と撮影が進むにつれて、「楽な被り方」というものが見えてきて、下顎を引くよりも、クラッシャーを前歯で押さえるほうが安定してアクションしやすいと気付き、変化していったのではないでしょうか。さらに、現場では実用性が重視されるはずですので、いろいろな試行錯誤による改良が加えられたことでしょう。クラッシャーと帽子の取り付け方もいろいろと工夫がなされ、下顎をあまり引かない取り付け方に変更されたことが予想されます。

 当時のスタッフの証言では、クラッシャーの固定法は最初から一貫して帽子固定、マスクそのものの固定法は顎紐固定で、旧1号~旧2号はクラッシャーの内側に隠していたそうです。桜島1号から、それまでクラッシャーの内側に隠していた顎紐を外へ出すようになったのは、クラッシャーの安定度が悪く、被り辛かったからと推定されます。  

 鹿皮製スーツの撮影会では、クラッシャーの合わせ目から藤岡氏の口が見えています。それが、第4話の夜間アクションシーンなどでのスナップでは、明らかに口を覆うように装着されています。これは、クラッシャーと顎が接するポイントを変更しないとできないことだと思います。

 クラッシャーと帽子の取り付け方でクラッシャーと顎が接するポイントやクラッシャーの左右への広がり方が変わるので、顎の引き方と相まって見た目の印象は大きく変わります。どちらにしても、かなりザックリした作業で、現在、我々が深く考えるほど当時の現場の人は深く考えてはいなかったのではないでしょうか。当時、FRP製だろうが、ラテックス製だろうが、クラッシャーの原型は同じと考えられますので、「原型は同じである」という前提で考えてみるのも面白いかと思います。

 「鹿皮製スーツ」撮影会の件は、同じ講談社発行でも書籍により記述が変わるのでやっかいです。この鹿皮製スーツ、コンバーターラングの間にあるファスナー部が、コンバーターラングと同じ色で塗られているので、それに着目して見ていくと、第1話の手術台のシーンなどで使用が確認できます。ただ、クラッシャーの前歯が無傷であるということは、あの撮影会、ダムロケ初日終了後、あるいは、その前と考えるのが妥当と思われます。ダムでのロケと、初登場シーンの撮影前後関係にも疑問があります。クランクインのダムロケ中にクラッシャーの前歯が破損したのは明白ですが、初登場シーンでは無傷です。撮影はバラバラに撮っていくので何ともいえませんが、見方を変えると、変化していく姿を追い、何故変化したかその理由を考えることで、その当時、現場スタッフがいかに試行錯誤していたかが想像できますし、その中で失われていった「何か」が後のライダーと旧1号の違いではないかと、そんな風に思っています。

 個人的には、実物がFRP製だろうがラテックス製だろうが、クラッシャーはFRPで作って、顎が動いて、「ガシャッ」ってのがいいです。

 そういった考察と、個人的な好みにより、私の試作では、クラッシャーの不要な部分はバッサリと切り捨て、顎を引いた角度で固定することを前提に、マスクの装着がしやすい形状に加工しました。

 中央下部の三角形のモールド、というか、「顎の割れ方」については、下顎を引けば引くほど三角形は正面から見て扁平になります。今回、クラッシャー上部と前歯のかみ合わせ位置を揃えたため、顎を引く角度が大きくなり、結果的に、思った以上に三角形が扁平になってしまいました。前歯をもう少し「出っ歯」にするか、三角形のモールドを修正する必要があります。

 ただ、このクラッシャー、どこまで同じ型が使われたのでしょう。上で「同じ型」と述べたのは、あくまで旧1号の範囲内であって、旧2号以降は不明です。少なくとも、旧1号では前歯とのかみ合わせの切り込みがモールドされていたのが、その後消滅していることは明らかです。旧1号のクラッシャーが藤岡氏に合わせて造られていたとすると、旧2号以降、岡田氏や中村氏、中屋敷氏に合わせたクラッシャーが造られたとしても不思議はありません。また、上で述べたクラッシャーの付け方に関する変更もどこかでフィードバックされてしかるべきでしょう。となると、切り込みがモールドされていないクラッシャーは、修正されたと考えるのが妥当でしょう。具体的には、桜島1号から変更されたのではないかと考えています。

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